NEWS

NEWS詳細

2013月02月01日

国産高性能 RNA ウイルスベクター(組換えセンダイウイルスベクター)による 世界初の遺伝子治療臨床試験成績(第 I/IIa 相臨床試験)を国際学術誌に公表 〜下肢慢性動脈閉塞症に対する安全性と有効性を示唆〜

■概要

九州大学大学院医学研究院 臨床医学部門(消化器・総合外科学)の前原喜彦教授、九州大学病院 血管外科の松本拓也副科長・助教と大学院薬学研究院(革新的バイオ医薬創成学)の米滿吉和教授 の共同研究グループは、国産高性能 RNA ウイルスベクター(※1)(組換えセンダイウイルスベクタ ー:※2)を用いた世界初の臨床研究を実施、その臨床成績を公表しました。

安静時疼痛を有する計 12 例の被験者の片側肢・計 12 肢に対し血管新生因子である塩基性線維芽 細胞増殖因子(bFGF/FGF-2)を発現する同ベクター(開発コード:DVC1-0101(※3))が、1 回の み 30 箇所の下肢骨格筋に 4 段階の用量漸増式に接種されました(第 I/IIa 相(※4))。試験薬に直接 関係すると考えられた重篤な有害事象は検出されず、また再現性よくかつ統計学的に有意に改善が 認められた評価指標は、「安静時疼痛」と「トレッドミル(※5)における歩行機能」でした。

以上の臨床成績は、2013 年 1 月 15 日(火)に米国遺伝子細胞治療学会誌「Molecular Therapy」電 子版に掲載されました。

 

■背 景

下肢慢性動脈閉塞症は重症化すると下肢切断に至る生命予後が悪い動脈硬化を背景とした疾患であ り、ライフスタイルの欧米化とともに我が国でも罹患者が増加しつつあります。最も有効な治療法は血 行再建術ですが、適応にならない症例も多く治療剤もほとんど無いため、人為的に新生血管を形成させ る「治療的血管新生療法」の臨床評価が進められてきました。しかしながら明確な有効性を証明した治 療的血管新生療法は未だ存在していません。

共同研究グループはこれまで、集中的な基礎検証の結果、DVC1-0101 は動物を用いた評価系全てに おいて、既存法と比較して格段に高い治療効果を示すことを明らかにしてきました。そのメカニズムと して FGF-2 が内因性血管新生関連遺伝子群を強力に誘導する機能があると同時に、血流還流能が高い 機能性血管を効率良く誘導することを明らかにしており、それぞれ単独因子による治療より高い治療効 果が得られる可能性が示唆されました。

 

■内 容

安静時疼痛を有する計 12 例の被験者の片側肢・計 12 肢に対し血管新生因子である塩基性線維芽細胞 増殖因子(bFGF/FGF-2)を発現する同ベクター(開発コード:DVC1-0101(※4))が、1 回のみ 30 箇 所の下肢骨格筋に 4 段階の用量漸増式に接種されました(第 I/IIa 相)。試験薬に直接関係すると考えら れた重篤な有害事象は検出されず、また再現性よくかつ統計学的に有意に改善が認められた評価指標は、 「安静時疼痛」と「トレッドミルにおける歩行機能」でした。

DVC1-0101 の基盤である組換えセンダイウイルスベクターは、細胞質で転写することから安全性に 優れ、また極めて高い遺伝子導入・発現効率を示すことからの作成ツールとして高い評価を得ています。

本臨床研究計画は、厚生科学審議会における 3 年半にわたる慎重な審議の後、平成 18 年 1 月に実施 計画が厚生労働大臣および環境大臣により承認され、同年 4 月より開始されました。

本臨床試験は国が定める「遺伝子治療臨床研究」として実施されましたが、九州大学病院 ARO 次世 代医療センターおよび外部臨床試験受託機関(イーピーエス株式会社・東京都新宿区)により、いわゆ る GCP 省令(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)に準じた厳重なデータ管理がなされまし た。

 

■効 果

再現性よくかつ統計学的に有意に改善が認められた評価指標は、「安静時疼痛」と「トレッドミル負 荷試験(※5)における歩行機能」でした。またサーモグラフィにおける投与肢足部温度や足趾脈波におい て、改善がみられる症例が複数観察されました。

特に国際的に歩行機能を改善する薬剤として十分なエビデンスを有するものはシロスタゾール(商品 名「プレタール錠」)のみであり、メタアナリシスデータからは約 50%程度の改善(上乗せ効果)とさ れています。本臨床試験で得られた DVC1-0101 の歩行機能改善効果(上乗せ効果)は約 150~220% (閉塞性動脈硬化症症例のみ)であり、同剤と比較してより高い改善効果を示す可能性があります。

左上:DVC1-0101 の細胞への感染様式の概念図
左下:実際の治療風景
右図:DVC1-0101 投与後の歩行可能距離の経時的変化(トレッドミル負荷試験による)

 

■今後の展開

以上の成績をもとに、研究グループは第 IIb 相医師主導治験の準備を開始しており、既に PMDA(医 薬品医療機器総合機構)との協議において試験デザインの合意を得ています。従って、平成 25 年中の 第 IIb 相治験の開始を見込んでいます。

また慢性動脈閉塞症治療薬の臨床評価における最大の問題点は、いわゆるプラセボ(偽薬)効果に加 え、「治験施設ごとのデータのばらつき」にあることが明らかになっています。これを解決するため、 現在下肢慢性動脈閉塞性疾患国際取り扱い規約 TASC-II(Transatlantic InterSociety Consensus)の チーフエディターであり、同疾患治療薬臨床試験の世界的権威である米国コロラド大学 CPC Clinical Research の William Hiatt 教授の全面協力のもと、同教授が開発したエンドポイント測定(※6)標準化 システム(EQuIP: Endpoint Quality Intervention Program)を導入し、的確なエンドポイント測定を 実施、日米のシームレスな効能評価系を構築し、将来の国際共同治験への素地を確立しています。

 

【用語解説】

※1 ベクター
遺伝子治療では、治療効果を示すタンパク質のもとになる遺伝子(DNA や RNA)を患者さんの体内

の細胞へ送り込み、目的のタンパク質を産生させることで治療効果を期待します。しかしながら、遺伝 子はそのままの状態では細胞の中に取り込まれることは極めてまれです。そのため、人工的に無毒化し たウイルスに目的の遺伝子を組み込み、そのウイルスの感染システムを利用して細胞内へ送り込みます。 このような無毒化したウイルスのことを「ベクター」(遺伝子の運び屋)と呼びます。ベクターには無 毒化したウイルスを基盤とした「ウイルスベクター」と、化学物質やある種の脂肪成分を用いた「非ウ イルスベクター」がありますが、現時点では細胞に遺伝子を送り込む能力はウイルスベクターが優れて います。

※2 組換えセンダイウイルスベクター
1960 年代に東北大学で発見された「センダイウイルス」を基盤としたベクターです。センダイウイ

ルスはマウスに肺炎を起こすことで有名なウイルスですが、ヒトには病原性が無く、また感染した細胞 の染色体に影響を与えないことから、理論的安全性が高いと考えられています。旧医薬品機構(現医薬 品医療機器総合機構)と複数の製薬企業が設立した官民出資ベンチャーである株式会社ディナベック研 究所(現在は成果管理会社)が開発した全く新しい国産高性能ベクターであり、現在はディナベック株 式会社(代表取締役社長・長谷川護・茨城県つくば市)が事業を継承しています。

※3 第 I/IIa 相、第 IIb 相(医薬品の開発ステップ) 医薬品の開発は、一定の手順を踏んで安全性と有効性を明らかにすることが求められます。少数例の

健康人(あるいは対象疾患の患者さん)に投与して安全性を確認するステップ(第 I 相)、比較的少数 例の患者さんを対象に、有効性・安全性・薬物動態などの検討を行うステップ(第 II 相:薬物動態と安 全性を主眼とした IIa と、投与量・投与法の探索や有効性に重点をおいた IIb に分けられます)、多数の 患者さんを対象に有効性の検証や安全性の検討を主な目的とするステップ(第 III 相)の後に、有効性 と安全性が示されたものが医薬品として承認されます。

今回九州大学が実施した試験は、世界で初めての人体使用となる組換えセンダイウイルスベクターを 用いた試験であったことから、安全性の確認を主眼としていますが、患者さんを対象として薬物動態や 投与量の妥当性を確認することを目的としていたことから、第 I/IIa 相試験として位置付けられていま す。

※4 DVC1-0101(開発コード名) 動脈硬化などにより血流が低下した下肢では、歩行すると次第に痛みを生じることがあり、この疾患

を「慢性動脈閉塞症」と呼びます。DVC1-0101 は、血管を再生させる機能を持つヒト塩基性線維芽細 胞増殖因子(FGF-2)の遺伝子を発現するセンダイウイルスベクターの開発名であり、これは九州大学 とディナベック株式会社が基礎研究段階より慢性動脈閉塞症の治療薬として共同開発を進めている、セ ンダイウイルスベクターを基盤とした「細胞質転写型 RNA 製剤」という全く新しい剤型の製剤です。

DVC1-0101 は、九州大学病院が拠点となる文部科学省の「橋渡し研究加速ネットワークプログラム」 (代表:中西洋一医学研究院教授)におけるシーズ C として採択され、重点的な支援を受けています。

※5 トレッドミル負荷試験 トレッドミル負荷試験とは,電動式でベルトの傾斜と速度で負荷量を設定し,走行運動することで運

動耐容能などを評価する負荷方法です。

※6 エンドポイント測定 治療行為の有効性を示すための評価項目のことで、臨床試験でのエンドポイントは、治療の目的に合

っており、なおかつ客観的に評価できる項目が望ましいとされています。歩行機能が低下している慢性 動脈閉塞症の臨床試験において、治療行為で本来求めたい効果(エンドポイント)は「トレッドミル負 荷試験における歩行機能の改善」であることが、1999 年に公表された末梢動脈閉塞性疾患臨床試験ガ イドラインにおいて推奨されています。

 

【お問い合わせ】

九州大学病院 血管外科副科長・講師 松本 拓也

電話:092-642-5466(医局) FAX:092-642-5482

Mail:takum@surg2.med.kyushu-u.ac.jp

 

九州大学大学院 薬学研究院 教授 米滿 吉和

電話・ FAX:092-642-4777

Mail:yonemitu@med.kyushu-u.ac.jp

 

ダウンロード

2013_02_01 Press Release

ページトップヘ