研究紹介

研究詳細

世界最高のDC増幅技術〜がん治療細胞製剤TLP1-001の開発

 現在がんは日本の国民死亡原因の第一位であり、今なお増加傾向にあります。厚生労働省保健医療局地域保険・健康増進栄養課生活習慣病対策室人口動態統計月報年計によれば、最近数年は「がん死」は常に死因別死亡数の約30%を超えており、がん死亡率の低下は国民福祉の向上のために必須です。
 がんの治療成績は最近20年間で大幅に向上しており、それは現在の3大標準治療である手術・放射線・化学療法に支えられています。しかしながら、外科手術と放射線療法は局所治療であり、転移を有する進行がんに残る選択肢は化学療法のみとなります。最近では多くの臨床的エビデンスが集積し、化学療法のみで完全寛解へ至るケースも増えていますが、一方で再発することも少なくなく、またその際には既使用剤への薬剤耐性により別種の化学療法剤への変更を余儀なくさるケースもあります。そして、これを繰り返すうちに次第に効果が減弱し、選択肢が狭められていってしまいます。


 がんの治療へ免疫システムを利用しようとする試みが40年以上前から行われており、日本ではピシバニールなどの細菌抽出物、レンチナンなどの菌藻類抽出物などが開発されてきました(第一世代)。しかしその臨床効果は限定的で、その後臨床現場での使用頻度は低下していきました。免疫学や分子生物学的知見の集積で、1980年代にはがんに対する免疫反応の分子基盤が明らかにされ、その一翼を担うサイトカイン製剤が試みられるようになりました(第二世代)。サイトカイン製剤は一部の悪性腫瘍に有効であることが明確にされましたが、一方で多くの場合は依然有効性を示すことができず、副作用も多いためにその使用は限定的なものでした。1990年代になると、がんを攻撃する作用を持つリンパ球などエフェクター細胞の大量培養技術が開発され、活性化リンパ球など養子免疫療法が試みられてきました(第三世代)。しかし、残念ながら養子免疫療法の治療効果も依然限定的で、多くのがん種では治療効果が明確になっていません。

 以上の免疫療法はいずれも「非特異的免疫療法」と呼ばれ、特定のがん種に対する特異的免疫の誘導法ではありません。1990年代後半になると「がん抗原」が発見されると共に免疫システムの高次基盤が明らかにされ、がん特異免疫の誘導技術の開発が始まりました。このがん特異的免疫誘導技術は非特異免疫と区別するために「がんワクチン」と呼ばれています(第四世代)。

 現在「がんワクチン」は、手術・放射線・化学療法に続く「がん治療における第4の選択肢」として期待されています。これは、後述するように、理論的には①今あるがんを抑えること②転移巣を抑えること③再発させないこと、これら全てに有効であり、特に「再発させない」というコンセプトは重要で、3大がん治療技術にはない全く新しい概念になります。


 がんを攻撃する免疫系細胞には様々なものがあり、異物貪食作用を発揮するマクロファージ、直接攻撃するLymphokine activated killer cells (LAK)、Natural killer cell (NK)、Natural killer T cell (NKT)、Cytotoxic T lymphocyte (CTL)などが治療用細胞として想定されています。しかし、特定の抗原に対してワクチン効果を示すためには、それらの細胞に指示を出す役割の樹状細胞(Dendritic cell: DC)を目的に合わせて効率よく刺激することが最も有効であると考えられています。

 現在、がんワクチンは世界中で試みられており、がん抗原としてペプチドを用い、アジュバントと一緒に投与する「がんペプチドワクチン」、そして患者からアフェレーシス(成分採血)によって得られた単球を体外で培養することでDCを誘導し、患者のがん組織或いは人工ペプチド抗原でパルスして再び体内に戻すという手法(いわゆる「DCワクチン」)が主に行われています。但し、どの手法が有効であるかについての直接的比較試験は行われておらず、現在はいずれも臨床試験段階にあります。前者は品質管理(Quality control: QC)のし易さもあり複数の製薬企業が治験を進め、一方後者は製造工程が複雑であることもあり、日本では先進医療・高度医療或いは自由診療として患者さんに提供されている段階です。

 1996年に最初のDCワクチンがB細胞リンパ腫に対して実施され、1998年にはステージIVのメラノーマに対して奏功率30%という報告が出されました。それ以降も多くの報告がなされ、DCワクチンは悪性腫瘍に対する特異的抗腫瘍免疫誘導に有用であると考えられてきましたが、臨床効能については未だ十分とは言えません。2004年に報告された米国NCI (National cancer institute)による集計結果ではその臨床的有効性は7.1%程度(standard oncologic criteriaによる判定法)と報告されました。腫瘍特異的T細胞の増加やInterferon-γ(IFN-γ)の産生、腫瘍の一部崩壊などを含めるとその報告例は多数存在しますが、残念ながら腫瘍退縮に至る症例はあまり多くありません。


 このDCワクチンを標準治療にするためには以下の条件を最適化し、治療効果を向上させる必要があるとされました。つまり、①DCの種類、②DCの活性化方法、③投与DCの数、④抗原提示させる方法、⑤投与ルート、⑥投与頻度と投与間隔です。私達はこれらの問題を克服するため、ワクチン効果を決定するパラメータを探索してきました。その結果、上記の内、②DCの活性化方法と③投与DCの数こそが治療成績を左右する最も重要なファクターであることを明らかにしました。私達はこれらを克服し、DCワクチンの効果を飛躍的に向上させる2つの要素技術を開発してきました。


【1. rSeVによる活性化技術】

 DCの活性化方法はDCの性質に大きく影響するため、その選択は非常に重要です。従来の研究ではDCワクチンの抗腫瘍効果には細胞性免疫が重要であると考えられており、DCの活性化をいかにTh1系へ制御するかに焦点が置かれてきました。これまでサイトカインやToll like receptor (TLR) に対するリガンド等が用いられてきましたが、DCの活性化状態を含め、未だ最適化はなされていません。

 私達は従来とは全く異なる発想のもと、組換えSendai virus ベクター(rSeV)がDCに高効率に感染し、強力に活性化させることに着目してDC療法への応用技術の開発を進めています。rSeVは感染効率が極めて高く、感染後のゲノム複製、転写全てが完全に細胞内で行われる“cytoplasmic RNA vector”です(詳細: DVC1-0101)。このrSeVで活性化されたDCは特にHuman leukocyte antigen DR (HLA-DR)やco-stimulatory molecules の1つであるCD80の発現レベルが高く、lipopolysaccharide (LPS) やPoly (I:C) で活性化させた場合よりも高値でした。また、その活性化メカニズムはウイルスゲノムによるものであることを明らかにしました(Kato T, et al. 2009)。

 これまで、腫瘍が十分に成長し血管が豊富になった後に治療を開始して、再現性よく腫瘍の増殖を抑制することを証明したモデルは全く存在しませんでした。私達はrSeVで強力に活性化されたDC (SeV/DC) を用いて、B6マウスの約7-9mm大の悪性黒色腫(B16)のうち88%を完全消失させること、つまりがんワクチンの目的の1つである『今あるがんを抑える』ことに成功しました(Shibata S, et al. 2006)。また、ラットを使った肺転移モデルを作成し、SeV/DCワクチンによる肺転移抑制、つまり『転移巣を抑える』ことに成功しました(Kato T, et al. 2009)。さらに、マウスを用いた実験から、同様のSeV/DCによる肺転移抑制効果を発揮するにはSeV/DCの投与は1回でよく、その効果は4週間以上に渡って保持されること、そしてその主なエフェクターがNK細胞とCD4陽性T細胞であることを明らかにしました(Komaru A, et al. 2009)。これはrSeV由来のへマグルチニンがNKp46を介してNK細胞を強く活性化していることが要因の1つであると考えられます。加えて、一度SeV/DCによって腫瘍の消失を起こした個体には同一腫瘍は生着しないということを確認、即ち『再発させない』ことに成功しました(Tatsuta K, et al. 2009、Matsunaga A, et al. 2010)。


【2. DC大量増幅培養技術】

 私達は悪性腫瘍に対するDC療法(SeV/DC含)の成績がDCの投与量依存的であることを実験的に示してきました(Kato T, et al. 2009、Tatsuta K, et al. 2009)。これは、いかに高活性のSeV/DCであっても一定の数が無ければ十分な治療効果を得られないということです。動物モデルと同様の抗腫瘍効果をヒトで得るためには、体重比で計算して、1回投与当りおよそ1x109のDCが必要(1x106 DCs/30gが必要)になることになります。これは臨床で用いられる量の10〜100倍であり、現行の方法でそれだけのDCを得ることは、患者さんへの負担を考えると実質的に不可能です(マウスの場合には1個体を治療するために他の個体を犠牲にしてDCを得る方法がとられています)。

 そこで、私達はヒトでの応用の前段階として、まずマウスを使ってDC増幅技術を開発しました(Harada Y, et al. 2009)。これはサイトカインカクテルを用いた2段階浮遊培養法で、通常法の1,000倍以上のDCを得ることが可能な簡便な技術です。この技術で増幅されたDCは通常のmyeloid系DCと同様の生物学的・免疫学的形質を持っていて、実際に高い抗腫瘍効果を発揮することが示されました(Harada Y, et al. 2009、Sugiyama M, et al. 2011)。

 次に、ヒトDC大量増幅技術の開発に当たり、ヒトCD34陽性細胞(血液系の未熟な細胞)を材料として、同様に最適化されたサイトカインカクテルを用いた増幅技術を確立しました(Harada Y, et al. 2011)。これは1段階或いは2段階浮遊培養法で、5週間で実に100,000倍にまで増幅することが可能になりました。ここで得られたDCもまた通常のmyeloid系DCと同様の生物学的・免疫学的形質を持っていて、治療に用いるのに必要と考えられる性質を保持していることが確認されました。


 しかし、実際に臨床応用を考えた場合、CD34陽性細胞は末梢血中の頻度が低く、回収/濃縮操作が煩雑であることなどから、末梢血単核球由来のDC増幅技術の開発が求められました。そこで、実際の進行がん患者アフェレーシス産物を材料としたDC増幅技術を開発してきました(開発コード: TLP1-001、特許申請済)。これは重要な3つのコア技術(培養器表面コーティング、CD3陽性細胞の除去、最適化されたサイトカインカクテルと培養密度)の融合で初めて可能になるもので、細胞医薬品化を想定した場合にこれまでの製造方法で最も問題になる品質管理の難しさ(細胞数の一定数確保が困難、培養行程が煩雑)を一挙に解消することが可能になりました。さらに、テラ株式会社との共同開発であることから、DCにパルスする抗原は米国NCIが文献上優先度が高いと分析(Clin Cancer Res 2009, 15:5323-37)したWT-1(第1位:MHC class I 2402/0201/0206拘束性)およびMUC-1(第2位:MHC非拘束性)の使用が可能です。TLP1-001の特徴は以下のようになります。


【TLP1-001の特徴】

 1. 一定DC数(治療1年間分)の確保が可能
 2. 一定品質(純度、生細胞率、CTL誘導能など)の担保が可能
 3. 汎用性の極めて高い最適な抗原をパルス済み
 4. 出荷/解凍直後に投与可能な剤形(医薬品化に必須)で提供
 5. GMP製造(医薬品化に必須)
 6. 製造に関わる関連特許申請済み(医薬品化に必須)


 現在は医薬品化/保険適応を目指して臨床開発を進めています。

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